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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

神仏というものがあるのなら、このまま父の死を黙って見てはいられない筈です。あたしの寿命を縮めてもいい、あたしの命を分けてでも、どうかいま父を死なせないで下さい。おしのは咽び泣きながら、掻巻の中で合掌し、全身を固くして祈った。

明くる朝、――卵の黄身を入れた重湯を、ほんの二た口ほど啜った喜兵衛は、もし椿があったら見たい、と云った。

「紅い山椿があったら欲しい」喜兵衛はさぐるように娘を見た、「子供のじぶんから、私は山椿の花が好きだった、ながいこと見なかったので、もしあったら見たいと思うが、いまは咲く季節じゃあないだろうか」

「いいえ咲いているわ、すぐにいって買って来ましょう」

「買うのか」

「亀戸の寮のまわりにはあるけれど、こんな町なかではむりよ」おしのは微笑した、「買うと云っても安いんだからいいでしょ、ちょっといって来ます」

おしのは自分で花屋へゆき、山椿らしい枝ぶりのものを選んで買って来、す物もいちばん素朴な万古の壺にした。それを持っていって、眺めよいように置くと、喜兵衛は黙って、かなりながいあいだ、うっとりとしたような眼で見まもっていた。

「よくなかったかしら」