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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁
同業者の寄合いとか、祝儀不祝儀とか、やむを得ないつきあいのほかには、殆んど外出もせず、独りで店を守りとおして来た。
「この座敷で」とおしのは呟いた、「あたしがおっ母さんとそんなふうに、いい気になって遊んでいるときでも、お父つぁんはお店のうす暗い帳場格子の中で――」
おしのはぎゅっと眼をつむった。そのとき東蔵がはいって来た。お待たせしました、という声をうしろに聞いたとき、おしのは胸の上で重ねていた両手に力をいれ、深く息を吸いこみながら、五拍子ほど身動きもせずに立っていた。
「どういう御用でしょうか」と東蔵が訊いた。
おしのはゆっくりと向き直った。緊張しているため、その動作は鈍かったが、東蔵をみつめた眼はするどく、相手の心の隅ずみまで読み取ろうとするような、強い光を湛えていた。
「あなた、あたしのおっ母さんを知っているでしょ」とおしのは眼を動かさずに訊いた、「知っているわね」
「知っています」と東蔵は答えた、「名題になることでたいそうお世話になりました、しかしそのほかにはなんのかかわりもありません」
おしのは眼を細めた。東蔵は十九か二十であろう、女形にしては角張った顔で、眼つきや唇許もきつすぎるが、ぜんたいにすっきりとした清潔感をもっていた。