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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

八

八

本石町へ帰ったおしのは、徳次郎にわけを話し、友吉という小僧を亀戸の寮へやった。

「おっ母さんが帰るまで、泊って待っていておくれ」とおしのは云った、「帰って来たらすぐこっちへ来てもらうのよ、わかったわね」

「幾日ぐらい待つんですか」

「おっ母さんが帰るまでよ」

「もしもおかみさんが帰らなかったら」

「よけいなことを云わないの」おしのは睨んで、それから徳次郎に云った、「駕籠でやってちょうだい」

その夜おしのは殆んど眠らなかった。

喜兵衛の容態はおちついたようにみえ、咳もときたまにしか出なくなった。しかし横山参得は「もうまもなくだろう」と云った。おちついたようにみえるのは躰力が尽きたからで、もう時間の問題であると告げた。――五日の夜になると、参得の診断を証明するかのように、喜兵衛が「おそのを呼んでくれ」と云いだした。声は弱よわしくしゃがれているし、こめかみや頬のおちくぼんだ顔には、まったく生きた色はなかったが、眼だけは血走ったような、するどい光を帯びていた。

「使いをやって、すぐ来るように云っておくれ」と喜兵衛は云った、「ひと言あれに云いたいことがあるんだ、まにあうようにいそいでおくれ」