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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《山彦乙女(やまびこおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 頁

青空文庫

六

しきりに、甲府侯、という名が出た。甲府侯というのは、四代家綱の弟、甲府宰相綱重の子で、すでに綱吉の後嗣と定っていた。半之助などには、むろんわからないけれども、ひじょうに頭の明敏な公子だそうで、しぜん一面には反感をもつ向きもあるらしいが、ぜんたいとして、かなり期待をもたれていた。

風評は気まぐれなもので、どこまでが真実であるかわからないが、甲府侯が、反柳沢の主動的なたちばにいる、ということは、半之助も耳にしたことがある。したがって、いまかれらの相談していることの意味も、かなりはっきり推察することができた。

六

「――いやだね」

半之助は顔をしかめた。そのような、陰謀めいた話は、興味もないし、聞くに耐えなかった。

「もうよそうじゃないか」

こう囁いたが、そのときその座敷へ、一人の女がはいって来たのを見て、ちょっと息をのんだ。頭の上から見おろすので、もちろん顔かたちは、よくわからなかったが、はいって来たときの額から頬のあたり、そして、躯の恰好や身ごなしが、反射的に、あの女を思いださせたのである。山村座の茶屋で、すはだかになって、汗を拭かせた、あの女に。

しかしすぐに半之助は首を振った。