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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新・水滸伝(しん・すいこでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 頁

青空文庫

身の休養を思うよりは、武松は一刻も兄の顔を見たいのが、帰心の的であった。旅の垢を落して、涼衣に着代えるまも惜しむように、さっそく都の土産物など持って、街端れの紫石街へ出向いて行った。

「おや、あれは都頭の武松じゃないか」

「そうだ、武松だよ、帰ってきたね!」

「さあ、たいへんだぞ。なにか起るよ、あのままじゃすむまいよ」

道を行く者、軒さきに立って見送る者、みな天の一角に、颱風を告げる一朶の黒雲でも見出したように囁きあった。

――とはまだ、何事も知らず、武松は、なつかしさいっぱいな足どりで、はや兄武大の家の前までもう来ていた。そして軒の芦簾を片手にかかげて、つと土間へ入ってみると、壁をうしろにした祭壇に“亡夫武大郎之位”と紙位牌が貼ってあるではないか。

「やっ? ……。門違いしたかな? ……。いや、そうでもねえが。はて、おれの眼でも、どうかしているのか」

胸の鼓動とともに、髪の根までが、ぞくッとして来た。たとえば、意にもない穴洞に立ち迷って、思わず、四辺のしじまを試してみるように、奥へむかって、彼は大声で言っていた。

「姉さんっ。……だれもいねえんですか。