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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

「お登りなされますか」

追いついた一柳市助、木村隼人佑、浅野日向などが、息せいて訊ねると、秀吉は顧みて、

「おう、あの辺りまで」

と、竹の杖を上げて、中腹の一高地を指した。

山の三分の一ほど登ると、小平地があった。秀吉は額に汗を吹かせて見せながら風の中に立った。そこに立つと、およそ柳ヶ瀬から下余吾方面までの山河が一眸に俯瞰された。山を縫い村落をつなぐ北国街道も一すじの帯のように眼で辿れる。

「中尾山は」

「あれでございます」

木村隼人の指さす所へ、秀吉の眼は向いていた。敵の主陣地である。夥しい旌旗が山の皺に沿うて麓までつづき、その麓にも、一軍団が認められる。

さらに眼を放つと、彼方の山々、此方の峰々、或いは道の要衝を取って、北国勢の旗は、ここと思う所に、見えぬ所はない。あたかも兵法の妙手が、ここの一天地を棋盤として、大展陣を試みたかのようである。布置の妙、配備の要、隙なく、間なく、逆なく、またすでに呑敵の気も昂く示して、壮観言語に絶すばかりだった。

「…………」

秀吉は黙々眺め渡していた。そして眸を、またもとの柴田勝家の主陣地たる中尾山の一点にもどして、凝視を久しゅうしていた。