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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

それだけしかここには見えぬ。

どこで、誰が、何を? ――笑ったのか。

しかも、明るい、無遠慮な、いかにも「快」とするような声をもって。

「……何じゃ」

怪訝そうに秀吉がいう。金森も不破も、同様な眼を、的なくうごかすのみだった。

――と。謡の声がした。

猿殿のおいどは

紅つばき

折るに 折れない

藪の花

猿殿が お嚔に

ちんと散ろ

南縁の障子の腰に、小猫のような影が日にうごいた。さっきの笑い声も、謡の流れたのも、そこに違いなかった。

「――此奴な」

利家がさっと開けた。

あ――と軽い声が庭へ跳ねたが、庭では、利家がもう飛躍したその小さい者を捉え伏せて、

「汝れな。――これっ」

と二つ三つ打擲していた。

「痛いっ。ごめんなさい」

悲鳴しながら、拳の下で、小さい悪戯者はまだ笑っていた。利家の打擲をくすぐったいように笑うのである。

「何たる、御無礼をッ」

膝がしらと両手とで利家が締めつけたので、息の根が止まったのか、少年はついにぐにゃりと黙ってしまった。

「止せ、止せ。又左」

縁の上から手を振って留めぬいているのは秀吉だった。その秀吉の短い羽織の裾から、少年持ちの赤い扇が半開きにブラ下がっていた。