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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

六

していた。塵は直接に害をせぬまでも、肺を弱らせて病気に罹りやすくさせることは疑いが無い。しかも山村から工場へというように、変化が急なればこそ心づくが、こうして只いては五百年千年の昔から、この世は今の通りに埃だらけであったものと考えて、辛抱する者も多いことであろう。毛布やモスリンの新しい塵が加わっても、やはり昔通りに畳を敷きつめて、その上で綿や襤褸ぎれをばたばたとさせている。

六

しかし埃はもう今になんとか処分せずにはおられぬことになると思う。それよりも一層始末の悪いことは、熱の放散の障碍である。是は必ずしももう馴れてしまったとも言われぬのは、近い頃までも夏だけはなお麻を用い、木綿といっても多くは太物であり、織目も手織で締まらなかったから、まだ外気との交通が容易であったが、これから後はどうなって行くであろうか。汗は元来乾いて涼しさを与えるために、出るようなしくみになっているものに相違ない。湿気の多い島国の暑中は、裸でいてすらも蒸発はむつかしいのに、目の細かい綾織などでぴたりと体を包み、水分を含ませておく風習などを、どうして我々が真似る気になったのであろうか。