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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
幽かな記憶が私には蘇ってくる。関東の田舎でも四十何年か前には、縁日の掛け茶屋の片隅に、夕方などは同じ光景を見たような気がする。酒は女の相手のしかも最も快活なる者がいなければ、昔でもやはり酒盛りとまでは展開し得なかったものらしい。そうして今日のような職業婦人の、税を納めて公認せられたことは新しいのである。それ以前も同じ需要のあっただけは想像に難くない。ただ何人が別にその任に当っていたかを、我々の社会史知識では答え得ぬだけである。
九州の或る島などの方言集には、サカモリと謂うのは男女相会して酒を飲むことであり、男ばかりで飲む酒は酒盛りとは謂わぬと記してある。私もこれが古意であろうと思う。例に引くのは憚りがあるが、朝家の晴の御式にも女性がこれに参加し、単に盃酌の間に給仕するのみならず、「ワタクシも酔ひまゐらす」ということが、その人々の日記には見えている。酒は刀自の管理に属し、これを醸す者もまた姥であったことを考えると、彼らの手で分配するのが正式であったことはうなずかれる。ただ近世の婦徳が大いに進歩して、多くの貞淑なる人々がこれを憎み避くるに及び、始めて如何なる者をしてその職分を代行せしめたかが、問題となっただけである。