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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
古宇利島の物語
なかった世の中において、すでに用いられていた配偶選定の、至って真面目なる方式であったことを知れば、他の記録が無い以上、是をでも間接の資料としなければならぬのである。
古宇利島の物語
沖縄ではその昔八郎為朝が上陸したという運天の港の外海に、古宇利と呼ばるる一つの島がある。至って水の乏しい畠ばかりの裸島であるが、島の名に依って記憶せられる遠い神代の昔語りがあるそうだ。島人の元祖は兄妹二人のはらからであったが、爰を人間の島にするために、霊鳥に教えられて夫婦の縁を結んだ。それ故に今でもこの島を古宇利と謂うのだとある。「こひ」をコウリとラ行に曲げるのは、沖縄の動詞の語法であって、文語で書くならば恋の島ということになるのである。
是と同じ物語はすでに中世の書物にも、土佐の妹背島の由来として著録せられている。さらに南西の島々にも尋ぬればその例なしとせず、中にも台湾の山地に割拠する蕃民に至っては、ほとんと部落ごとにこの口碑を保存している。素朴単純なる推理法において、人類の起原をインセストに托するは自然であった上に、彼らの間にはまたノアの箱船と同じように、世界が大水になって神の思召しに叶うた者のみが、生き残ったという信仰さえあったのである。