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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
六
元来万能だの万力だのという農具は、みなこのマンバと同様の宣伝名で、すなわちそれがすでに商品として彼らに供給せられたことを語るものである。センバという語などもちゃんとそれ以前に、我々が囲炉裏の炭火をすくう道具、奥羽ではオキカキ、九州では火スクヒなどというものに占領せられていた。今はその意味が不明であるが、是も多分その能率を形容した広告語であろうと思う。ところが後に稲扱器にその御株を取らるるに及んで、大いに謙遜して十能などという名に納まろうとしていた。名称はその初期の目的さえ達してしまえば、後はただ惰性をもって我々がこれを保持するに過ぎなかったのである。
六
だからこのような地方語の穿鑿は、通例は物好きの一茶話に過ぎぬのである。稲扱器がセンバと謂おうが、またカラハシと呼ばれようが、もしそれが前期経済組織の一つの目標でなかったならば、こうして自分のように各地の異同を究めるに苦労する必要もないのである。それと同時にもし是より以外の材料に由って、この変遷して痕をも留めざらんとする農村生活の時代相を、認識せしむるの途が無いとすれば、いかに小さな事柄であっても粗末にしてはいけない。