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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

二

二

俳句という言葉は、明治以来の新語かと思われる。日本では第一高等学校を一高という類の略語が通用しているから、「俳諧の連歌の発句」を略して俳句というのも気が利いている。しかしそのために我芭蕉翁の生涯を捧げた俳諧が、一段と不可解なものになろうとしていることだけは争われない。この意味においては、新時代の文章道の功労者として、私たちの最も感謝している正岡子規氏なども、俳諧道の中興開山ではなくて、或いは俳句という一派の新文芸の第一世ということになるかも知れぬ。子規はその著述の中において、附合すなわち芭蕉翁の唱導した俳諧の連歌は、文学でないと明言しているのである。こうしていわゆる俳句を独立の地におけば安全であり、また今日のごとき俳句の新境地を拓くためには必要だったかも知れぬが、是は我々にとっては忍ぶべからざる抹殺であった。どうしてこの俳諧の最も歴史的なる部分が文学であり得ないのか。もしくは少なくとも何故に文学でないと、ある優れたる一人の文人によって断言せられ得たのか。是は将来日本の文化史を専攻しようとする少数の学生にとっては、大きなまた意義の深いテェマであろうと思うが、はたして一般の諸君にまで、興味を提供するかどうかは疑問である故に、正面から細かく是を論ずることは、今日はまず差控えて置く方がよいであろう。