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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
花散りて籾は二葉にもえあがり 以之
春ともいはぬ火屋の白幕 桃鯉
やう/\と峠に掛る雲霞 淡水
火屋というのは火葬場に設けた仮小屋のことで、それを太陽の光に照されぬように、幕を張る習俗が以前にはあった。落花と苗代との艶麗なる暮春の風景に対して、是はまた意外なる寂しい反映である。寛政頃の日光道中の紀行に、今市附近でそれを見たという記事もあるが、この連衆はすでにみな、その物悲しい情趣をちゃんと体験していたのである。
露霜窪くたまる馬の血 嵐雪
坊主とも老とも言はず追立歩 芭蕉
土の餅つく神事おそろし 同
追立て夫というのは、誰彼なしに途をあるいている者をつかまえて、夫役に使ったことをいうかと思われる。それから直ちに土の餅を聯想したのは、今でも型ばかりは残っている尾張の国府宮の儺追祭が、この連中には殊によく知られていたからであった。或る一人に土の餅を負わせ、鬼に見たてて倒れるところまで追いあるくのがその祭の古例で、誰もその役に当たることを欲しないので、通りがかりの人を捉えて勤めさせたとも伝えられているのである。