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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

「そのほかにお願い申すことはございません」

「亀千代のことはどうだ」と綱宗はたたみかけた、「亀千代を毒害するということを聞いた、袴着の祝いのときに、毒を盛る計画がある、ということをこの耳で聞いたぞ」

甲斐は黙った。綱宗は刺すような眼で甲斐をにらみ、これも無根の噂として聞きながせというのか、と詰めよった。甲斐は黙っていて、それから、いかにもと頷いた。

「さようなことがあるわけはございません」

「慥かにか」

「慥かに、事実無根でございます」

「証拠をみせろ、事実無根だという証拠があるか」

甲斐は静かな眼で綱宗を見まもり、見まもったまま、そのまえにうかがいます、と反問した、「その噂が仮に事実だとして、なんのために、若君のお命をおちぢめ申すのですか」

「伊達家横領のためだ」と綱宗が云った、「おれを逼塞させたのも、伊達家を横領するためだった、さればこそ、跡目相続のときに入札などということが行われたではないか」

「しかし、亀千代さまが御相続あそばされました」

「だからいま、その亀千代を除こうとする、ということは考えられぬか」

「考えられません」と甲斐が答えた、「若君毒害の風聞は、以前にもございました、私は或る者からその実か否かを訊かれましたので、岩沼(田村右京)さま、寺池(伊達式部)さまという、直系の兄君がお二人も御健在である以上、