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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
せめて見当のつくところまでと思って、玄四郎は弥兵衛に話しかけながら、すばやく廊下を進んでいった。すると、畳廊下にかかるところで、「だめだ」と弥兵衛が立停った。
「どう云われてもむだだ」と弥兵衛はむっとした顔で云った、「ここから向うは役付きの部屋になる、咎められないうちに戻ってくれ」
「残念です、ひじょうに残念です」
「戻ってくれ」と弥兵衛が云った。
玄四郎は静かにあとじさりをした。それから五歩ばかり戻って振返ると、弥兵衛が左へ曲ってゆくのを認めた。
――どうする。
なに、広くとも江戸城ほどはあるまい。玄四郎は畳廊下のほうへ引返した。奥へはむずかしいが、表て座敷なら勘だけでも近よれる筈だ。彼はとっさに心をきめ、さも用ありげな足どりで、弥兵衛の去ったほうへと進んでいった。ふだんならうまくいったかもしれない、三人ほどすれちがった侍たちも、べつに怪しむようすはなかったが、中ノ口の番所にかかると呼びとめられた。邸内にもすでに警戒の布令が出ていたらしい、口番の部屋から二人出て来てどこへゆくかと咎めた。
「御家老のお部屋へまいります」玄四郎はつとめて静かに答えた、「勘定部屋支配から申上げることがあって、関さまのお部屋へまいるところです」