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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
宮本節
――用務繁多のため、帰国が延び延びになっていたが、その月いっぱいで江戸番が明き、六月初めには船岡へ帰る予定だった。
端午の節句から二三日、国老事務から手が放せなかったが、それもほぼ片づいたので、十一日から湯島の家へ保養にゆくことにしてあった。湯島へは四十日ばかり無沙汰だったし、四月の末に、新八が自作の唄を披露したいそうだ、とおくみから云って来たので、それを聞いてやりたいとも思っていた。
その当日は、久方ぶりで「朝粥」の会を催した。ずいぶん久しぶりで、客も十人ほど集まったが、以前のようなうちとけた、なごやかな気分はみられなかった。――甲斐は蜂谷六左衛門の隣りに坐ったが、六左衛門はあまり酒を飲まず、医者に止められたものですから、と云って先に食事をし、早く帰っていった。
「すっかり顔ぶれが変ってしまいましたな」と帰るまえに、六左衛門が低い声で甲斐に云った、「あのころは楽しゅうございました、里見十左が肩をいからせ、むずかしい顔をして怒る、伊東七十郎がそれを面白がってからかう、顔が合いさえすれば、必ずそんなふうになったものです、私はどうして二人がそう不仲なのかと、初めは不審に思っていましたが、やがて不仲なのではなく、二人はもっとも仲が好いのだ、ということに気がつきました」