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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
断章(十三)
宇乃は客のあとを片づけてから、鮎をみにいってよいだろうかと訊いた。
「まだ焼きあがってはいなかったのか」
「もう少しというところでございました」
「みておいで」と津多女は頷いて、それからふと思いついたように云った、「おまえ鮎を届けに仙台までいっておくれか」
宇乃は眼を輝かせた。
「わたしも頼むものがある」と津多女は居間のほうへゆきながら云った、「帯刀どのにも用事があるかもしれない、おまえが使いにゆくと帯刀どのにお云いなさい」
「はい」宇乃の声は浮きたつように聞えた。
津多女は「宇乃さん」と呼んだ。
宇乃は振返って、また膝をついた。津多女は立ったままその顔をじっと見まもったが、静かに首を振って、なんでもない、いっておいでと云った。そして、去ってゆく宇乃の姿を見送りながら、もういちど首を振って呟いた。
「おかしな子だ」
断章(十三)
――申上げます、仙台より渡辺金兵衛が伺候つかまつりました。
「待たせておけ、酒がぬるいぞ」
――大槻斎宮にございます。
「なんとした、おそいぞ」
――御国目付の出立が、一日延びましたのでおくれました。
「江戸から使者があって、祝いの酒を始めたところだ、一つ遣わそう、寄れ」