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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

七ノ五

「グワ……」

と張りさけそうな葉子の咽喉の不気味な音を、一瞬のうちに、遙かうしろに離して、黒吉は一転すると、元のブランコをはっしと掴んだ、一呼吸、グルッと尻上りでブランコにちゃんと腰をかけると、遠く下の方からざわめき上った拍手の音に、誘われて、一遍にビッショリするほどの汗が吹き出して来た。

だが、黒吉は、汗を拭うのも忘れていた。

(ダメだ――)

「夢」は浮ばなかった。

まるで視野は暗転する舞台のように真ッ暗だった。それだけに尚更、「次の場面」が覗きたかった。

(吉か、凶か――)

やがて気づいたように、するすると綱を伝わって下り、楽屋に帰っても、そのことばかりが頭全体を占領してしまっていた。

七ノ五

日が暮れ、火がともり、そして又一つ一つ灯が消えていった。

既に場はハネて、あたりは深閑としていた。何時頃であろうか、一旦寝床に這入った黒吉が、すっくり起上った。黒吉の眼は物に憑かれたように、異様な光りをもっていた。

彼はいくら睡ろうと焦慮っても、眠ることが出来なかった、この一座の未来が、つまり自分と葉子との未来に大きな関係のあるこの一座の「明日」が、一体、吉なのであろうか、凶なのであろうか――。