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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

彼女は果たして魔性の者であろうか。千枝太郎は明かるい日の下で、もう一度彼女の正体を確かに見とどけたいと思った。

「きょうの法会はなんどきに果つるかのう」と、彼は独りごとのように言った。

「申の刻じゃと聞いている」と、翁は言った。「諸人が退散するまでにはまだ一刻余りもあろうよ」

言ううちに、前の方に詰め寄せていた人々は、物に追われたように俄に崩れて動き出した。その人なだれに押されて、突きやられて、翁と千枝太郎は別れ別れになってしまった。法会は中途で急に終わって、参列の諸人が一度に退散するために、先払いの雑色どもが門前の群集を追い立てるのであった。

法会はなぜ中途で終わったのか。千枝太郎は逢う人ごとに訊いてみたが、誰にも確かなことは判らなかった。しかし衆僧をあつめて読経の最中に、大導師の阿闍梨がなにを見たのか、急に顔の色を変えて額に玉の汗をながして、数珠の緒を切って投げ出して、壇からころげ落ちたというのが事実であるらしかった。

「魔性のわざじゃ」

千枝太郎も顔の色をかえて早々に逃げ帰った。阿闍梨はなにを見て俄に取り乱したのか、おそらく参列の人びとのうちにかの玉藻の妖艶な姿を見いだして、その道心が怪しく乱れ始めたのであろう。