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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
「それは気の毒じゃ。わしもきっと拝みにゆく」
翁に別れてふた足三足行きかかると、彼はあとから呼び戻された。
「千枝まよ。まだ言い残したことがある。藻はもう家にいぬぞよ」
千枝松の顔色は変わった。翁は戻って来て気の毒そうに言った。
「婆めの弔いのときには藻も来て手伝うてくれたが、その明くる日に、都から又お使いが来たそうで、すぐに御奉公にあがることに決まって、きのうの午頃にいそいそして出て行ったよ」
渡り鳥が二人の頭の上を高くむらがって通ったので、翁は思わず空をみあげた。千枝松は俯向いてくちびるを噛んでいた。
「詳しいことは庄司どのにきいてお見やれ。婆がいなくなったので寂しゅうてならぬ。わしが家へも相変わらず遊びに来てくれよ」
千枝松はうなずいて別れた。
仇のように憎んでいた疫病婆でも、その死を聞けばさすがに悲しかった。その奇怪な死にざまは更に怖ろしかった。しかし今の千枝松に取っては、婆の死も塚の祟りももう問題ではなかった。彼は半分夢中で藻の家へ急いでゆくと、行綱は蒲団の上に起き直っていた。
「おお、いつも見舞うてくれてかたじけない」と、行綱はいつになく晴れやかな眼をして言った。