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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

「たしか、あれは、二十歳の頃だった」永く忘れていた昔の夢を、思い出そうとでもするように、蔵人はしばらく黙想したが、「家中こぞって田楽の平へ、兎を狩りに行ったことがあった。もちろん、殿のお供をしてな。……すると大きな熊が出た。いやその大きさというものは、私の体の二倍以上、三倍もあろうかと思われたが、不意の狩倉に周章てたのであろう。旗本目掛けて駆けて来るではないか。すわや獲物ござんなれと、八方から矢襖をつくったが、どうだろう一本も矢が立たない。ポンポンポンポン刎ね返すのだ。すると殿が仰せられた――蔵人よ、あれを仕止めろとな。……で、私は走り出たが、さあ思案に余ってしまった。なにしろ征矢が立たないのだからな。そこで私は決心し、鎧通しを引き抜くとグイと逆手に取り直したものだ。月の輪! 月の輪! そこを突こうとな」

云い云い蔵人はテーブルの上の、硯箱から毛筆を取り、ムズと逆に握ったが、さすがに勇ましい素振りであった。

「おお浮雲のうございますこと」松虫は胸を躍らせたが、

「それから何んとなされましたな?」

「うん、苦もなく退治たよ。のしかかって来る一刹那を飛び違ってただ一刀、胸から背まで刺し貫いてな」