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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

五

月も星もない闇夜であった。

と、卜伝が耳を傾げた。

「はてな?」と彼は口の中で云った。「蔵人、お前先へ行け」

「何故だ?」と蔵人は訊き返した。

「並んで歩いては険難だ。なんでもよい、先に立て」

で、蔵人は先に立った。

「よいか、蔵人、云っておくが、背後を見てはいけないぞ」

「よし」と蔵人は忍び音で云った。

卜伝は木刀へ手を掛けた。が、何事も起らなかった。二人は足早に進んで行った。

スルリと卜伝は木刀を抜いた。いわゆる春の夜の花明り、闇とは云っても仄明るかった。薄り一筋木刀が闇の中へ浮いて見えた。卜伝は切っ先へ眼を付けた。と、気合いが充ちたのか、

「カーッ」

と一声声を掛けた。

五

声は二町も響いたろう。木精を返すばかりであった。

「もうよかろう」と卜伝は云った。それから木刀を腰へ差し、薬箱をユサリと揺すり上げた。

「いったい何んだ?」と蔵人は訊いた。

「さあ、それが解らない。とまれ凄じい殺気だった。俺もちょっと恐ろしかった」

「誰か俺達を狙ったのか?」

「そうだ、それだけは疑いない」

「そんなに業の出来る奴か」

「業も業だが」と卜伝は、ちょっとその声を顫わせた。「凄かったのはその心だ。