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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

日野俊基のごときは、なお捕まっていないのだ。

そもそも、わずか数日のまに、こんな大量の検挙をみたことの動機と、その真相とは、いったい、どういうところにあったのか。

×       ×

前月の末だ。

明細にいえば、四月二十九日のこと。

鎌倉幕府の内へ、密書をもって内訴してきた不思議な公卿の使いがあった。使いは「――吉田ノ大納言定房卿から」と告げたのみで、姿を消した。

吉田定房といえば、たれも知る天皇の乳父。

現、天皇後醍醐のお乳のひとの父であり、天皇の御信任はもちろんのこと、いわゆる“重臣の三房”(北畠親房、万里小路宣房、吉田定房)と呼ばれている一人である。

「御密書とは?」

それすら奇怪なのに、内容はなお、幕府中枢の人々を驚愕させた。

天皇の帷幄のうちで、討幕の準備が、着々、運ばれている。しかも、それが実行に移る時機は眼の前に来ている――、という密告だったのだ。

「信じられようか」

幕府側の重臣、ことごとくが首を傾げ、すべての者が、いちどは言った。

「信じられぬことだ!」と。

しかし、目利に見させても、筆蹟は、まぎれなき定房卿のお筆だという。