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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
盛高のことばの裏の意味はすぐ解けた。――首の座を告げているのだ。――せめて一夜は、というからには、処刑は、明日と極ったにちがいない。
都を立った日から、死はいつも、一歩の前と覚悟していた。旅の途中の虐殺さえありがちなのだ。七十余日措かれていたのが、ふしぎな程である。
「仰せにあまえ、今夜はぞんぶん、手足を伸ばして寝ませてもらおう。さらにこの髯が剃れるとは、心うれしい。首となるまでも、穢い髯は落して逝きたいものよと思うていたのだ。ゆらいこの俊基は、公卿のうちでも、ずいぶん洒落者の方でしたからなあ。はははは」
「ところで……」と、盛高はまたも、俊基にとって思いがけない言を付け加えた。
「公ではさらさらないが、夜に入らば、そっとここへ見える客人があるはずです。というて公儀には仔細ないお方だ。ごゆるり名残りを惜しまれるがよい」
誰だろう。晩にここへ名残りを惜しみに来る者とは?
あるじの盛高は、その人間の名は告げずに去ってしまった。俊基も、しいて問おうとはしなかった。何事によれ、彼は未練をきらう風だった。やがて淡々と、明日にせまる死の用意の身清めについていた。