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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「楠木は煮えきらぬ男。あれのみは、俊基の見損じであったかもわからぬ。まず、あてにはなるまい……」
と、除いていた。そして、
「たとえ楠木ずれが不参加でも、諸州の宮方お味方は、今はただ主上の御一令を待つのみだ。俊基のなすべきことは為しおえている。――やがて見よ、北条の崩壊は近きにあろう」
と、独りひそかな快哉を叫んでもいた。
輿は町端れから、山蔭の小道へかかり、ほどなく仮粧坂の上へ出ていた。そこの葛原ヶ岡には、白い幕を引いた死の座がもう風の中に出来ていて、矢来の竹がカラカラと虚空に魔の笑いのような音をたてていた。
ここにもはや、たくさんな人影が矢来をめぐッて佇んでいる。単なる物見高さでもなく、手くびに数珠をかけている男女もあり、輿を出た俊基の姿が、矢来の内へ曳かれたせつなには、誰からともなく、念仏の声があちこちから、わき起った。
――と同時に、矢来口の辺で、
「これっ、どこへ行く」
「怪しい奴めが」
「ならん、ならんっ。遠くへ退れっ」
一人の男が、兵たちに襟がみをつかまれて、邪けんに突きとばされていた。
が、男は抵抗するでもなく、地にまみれながらも、何か思いつめた形相で訴えていた。