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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

――この宮方参謀僧のひとりである忠円を、幕府がうかうかと、足利家に預けおいたなどの処置からみても、柳営中のたれひとり、高氏のおそるべき大志などは、つゆほども、さとっていた者はなかったらしい。

二日ほどおいて。

その忠円僧正は、流罪の地、越後ノ国へ物々しく送られて行った。――もちろん押送使には足利家の家士も加役として交じっている。

一方。

右馬介はといえば、それより一日早く、同じ道を、北越へ急いでいた。万一追いつかれてはぐあいが悪い。家士のうちには旧知の朋輩がたくさんいる。で、浅間山を左方に見ながし、三国山脈をこえ、信濃川の水戸口(現・新潟附近)から、弥彦ノ庄へ入って、佐渡への便船を待つことにした。

もう八月だった。

裏日本の秋は早い。数日の荒れが凪がないせいか、便船はなかなか出ない。その間に、彼は聞き捨てならぬことを耳にした。先ごろ、佐渡の本間入道の手で、配所のお公卿が、密々殺されたという噂だった。

「もし噂がほんとなら?」

右馬介は、当惑した。

「……佐渡へ渡ってもぜひないことだ。すでに、資朝卿も亡い後では」と。

しかし、――その噂なるものも、どのていど信じていいかは分らない。