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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
裸の民と権力との抗争だ。
今日にかぎらず、この種の啀みあいとなると、いつも血をみるまでは熄まなかった。だから近国の地頭や六波羅でさえ、
散所一揆
といえば、事長びくも覚悟か、手を退くかだった。ただの一ぺんでも、法的な処理などつけえた例しはないのである。
まさに、今夜の形相は、それに近い――。
加うるに、道明寺川から駈けつけた六波羅兵は、おそらく探題直命の者どもだろう。捕吏、放免などの手ぬるさとは違って、殺到するやいな、
「下種ども、命はいらぬのか」
いきなり、矢を射浴びせて、
「かまわぬ。片っぱしから、虫ケラ塚としてしまえ」
と、まるで戦場へ立ち向うような勢いで、まず前衛の散所民から駈けちらしにかかった。
凄愴なおめきが応えた。無数な影が崩れ立つ。しかし、蜘蛛の子と逃げちるものも、すぐ捲き返して来ては、捕方の背後をつく手段に出たり、また、どこからともなく、石の雨を降らせて、敵に面を上げさせなかった。
「豊麻呂」
「弁ノ殿」
二人は、眸と眸で、ことば以上のものを、期しあった。
そこは出屋敷の役部屋だった。灯もなく、さしいる月の白さだけが、死の床を思わせる。