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びしょうじょいちばんのり
美少女一番乗り
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《美少女一番乗り(びしょうじょいちばんのり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 73,583 字 · 149 頁
「お母様、私はしばらくお暇をいただきます。京へ上って立派な武士になり、槇屋の家名をあげるまでは戻りません。不孝の罪は恐ろしゅうございますが、私をあわれと思し召してお許し下さい。必ず、必ず立派な武士になって帰ります」
ささやく声の半分は涙であった。
いざとなると悲しさで胸がいっぱいになり、立とうとする度に気が弱ってくる。しかし金之助はこれではならぬと自ら叱って、静かに裏口から家をぬけだした。
豊川の磧で慶太郎の平手打ちをくった時、金之助の心ははっきりときまったのである。折もよしお奈々が母を引取ろうという、ここで京へ出なければ二度と機会はこないかも知れぬ、そう決心してついに彼は奮起したのだ。
戦国の世のこととて、夜中に海道の往来は危険である。金之助は城下を北へ抜け、設楽郡から雨山を越えて挙母へ出ようと、足にまかせて夜道を強行した。――およそ一刻半(三時間)ほど息つく暇さえ惜んで急ぐうち、やがて豊川の本流を渡るところへ行き着いた。もう八つ半(午前三時)を過ぎたであろう。
――夜の明けぬうちに川を越せば、もう嵩山城の者につかまるおそれはない。
そう思うと疲れた足も軽く、霜の小径を磧の方へと下りて行った。