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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 141,130 字 · 288 頁
なまけ者の私にとっては、全く一生に一度の大勉強であった。そのためすっかり痩せてしまって、晩年の尾崎紅葉みたいな顔になったと、友達に冷やかされたが、ともかくも当時秀才の登竜門だった一高の入学が叶って、首尾よく一高の健児になりすまし、あらゆる文芸運動から遠ざかって、もっぱら向陵の健児ということで、野次馬学に精進した。
その頃、絶えず私の興味を囚えたのは、泉鏡花の小説であったといってよい。当時私の同窓だった芦田均などは、今でも私を鏡花の崇拝者だと思っているらしい。ところが明治の末頃から、私は鏡花の因縁物と、一種のお義理と、不思議な文章とに興味を失い、鏡花の影響から免れるために、少なくとも十年は苦心した。
一時文芸に遠ざかったために、私はその頃天下を風靡した自然主義文学の影響から超然とすることが出来た。これは私にとっては幸せであったかも知れない。当時はリズムやメロデーのある文章が嫌われ、文章は所謂下手に見えるのを以て良しとした時代で、自然主義の洗礼は、あらゆる文芸は勿論、科学や法律や、哲学や、すべてのものに必要であったにも拘わらず、一方その害毒もまた重大であったことを考えて、私の三年あるいは五年のブランクは、必ずしも不幸ではなかったと考えているのである。