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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 141,130 字 · 288 頁
銭形平次捕物控
一
一
「親分の前だが、この頃のように暇じゃやりきれないね、ア、ア、ア、ア」
ガラッ八の八五郎は思わず大きな欠伸をしましたが、親分の平次が睨んでいるのを見ると、あわてて欠伸の尻尾に節をつけたものです。
「馬鹿野郎、欠伸に節をつけたって、三味線には乗らないよ」
「三味線には乗らないが、その代り法螺の貝に乗る」
「呆れた野郎だ、山伏の祈祷をめりやすと間違えてやがる」
平次は大きな舌打をしましたが、小言ほど顔が苦りきってはおりません。
「全く退屈じゃありませんか、ね親分。こんな古渡りの退屈を喰っちゃ、御用聞は腕が鈍るばかりだ。なんかこう胸へドキンと来るような事はないものでしょうか」
「御用聞が暇で困るのは、世の中が無事な証拠さ。それほど退屈なら、跣足で庭へ降りて、水でも汲むがいい、土が冷えていてとんだ佳い心持だぜ」
銭形平次は相変らず、世話甲斐のない、植木の世話に余念もなかったのです。――秋の陽は向うの屋根に落ちかけて、赤蜻蛉がわずかばかり見える空を、スイスイと飛び交わす時分、女房のお静はもう晩飯の仕度に取りかかった様子で、姐さん被りにした白い手拭が、お勝手から井戸端の間を、心せわしく往復している様子です。