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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《随筆 新平家(ずいひつ しんへいけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 213,575 字 · 424 頁
というのだ。そこで老先生を打ち囲み“汽笛一声新橋を――”を合唱しだした。それを静岡辺まで覚えていたのは、ぼくら生徒でなくて、なんと、座にいた四十がらみの中老妓だった。次には“箱根の山は天下の嶮”――これも半分しか覚えていない。けれど、老先生もいつのまにか、ぼくらと一しょに手拍子を打って歌っておいでになる。老夫人も歌う、芸者も歌う、神奈川新聞のS氏、K氏、H氏も歌う。なんともたのしいことであった。考えてみると、先生八十八歳、生徒みな六十一、二歳。ほんとにありがたい春の一日半夜だった。
こうも暮らせるこの地上を、源平両陣にわけて同胞が戦い、一つ地上を、紅白二つに分けて住んだ治承、寿永の世代をこれから書いてゆくのは、辛い気がする。労を厭うのではない、筆の心が、辛いのである。
平家物語は、詩として書かれた。詩として奏でるよりほかに、あの人間業を歌いようもないからであろう。
だが「新・平家物語」では、そうもならない。現代人への訴えには、詩ばかりでは、日本の現実を、慰めようもなく、解決の道も見出しうべくもない。読む方にも悩み、書く者にも悩み、私は今、第十一巻という二期の新しい発足に当って、またその傷みを新にしないわけにはゆかない。