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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
最初の時はまったく驚いた。度胆をぬかれたのである。なにしろ、描きかけの画がウソになったり、そうかと思うと、又本当だったりしたのだから。それは餓鬼岳の頂上に近い処で、白檜の矮樹の間から、鷲羽岳を望むものだった。その近景の白檜の枯枝が、揃って下を向いていたはずなのに、ある日のそれは逆に空を指しているではないか。私はあっけにとられた。どうして描きちがえたと思えよう、下向きの枝が気に入って構図したものを。しかし現実はまさに逆なのだ。首をかしげつつ私は、思いきりわるく描き改めた。ところがどうだろう、その後の一日、くだんの枝どもは、又ちゃんと、初めのような下向きに戻っていようとは。ここで初めて私は、「枯枝が動く」――という事実に眼を開いたわけである。これはまったくの枯木ではなく、老樹が谷に向って差し出した、幾条かの枝が、ほとんど葉をふるった枯枝となっているものだった。
鷲羽岳と白檜の林の挿図
その数年後、私は白馬裏の清水尾根で、白檜の林を前に、劔岳を描いていた。ある日、その古い白檜の大枝が、掌を返したように、向きを変えているのを見て、アッと息をのんだ私は、卒然前年の経験を思い出して、あまりの無気味さに身ぶるいしながらも、あれだナ――とうなづくことができたのである。