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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
ガレに凍りついた新雪には、匕首をひらめかす感触がある。こうしてようやくフトーの尾根を越えたが、道は終にまったくカレに押落されて行くべくもない。四辺はようやく暮れまさって、西沢の水声が襲うように高鳴りする。そこで急な崖を河原に下って、乱石と流木の堆積を、凍りかけた水を浴びつつ登る。幸い西沢の小屋は遠くなかった。ふと焚火の匂いが感じられた、それで私は――これは人がいるぞ、と言うと、山男は――そんな事があらすか、と否定したが、やがて犬がけたたましく吠え出した。崖ぷちの大岩の蔭によった小屋には、果して人がいた。それも四人の男たちが、広い板敷に火を囲んで、寝ころがっていた。彼らは私たちが来たのを意外としたらしく、馳走顔にアセチレンのかんてらをあかあかと点もして、愛想よく席を明けてくれる。今まで酒でものんでいたらしく赤い顔を向けて、――あんた方が来たので心丈夫になった、などと、すこし似あわしからぬ挨拶をする。なんでも笊の奥沢から越えてきた、金山探しと猟師の連中だった。一行の中に山馴れぬ者が居たか、あるいは珍らしい客などを喜ぶあの商売の縁起かつぎかと思えば、そんな挨拶も合点が行かぬでもない。