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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

それに斉整とはいえ、右肩剣ガ峯から、遙か東海の雲へ走る、のびのびした弧線は、北角白山岳から本栖湖さして、なだれ落ちる一線にくらべて、やや長大であるから、山体はおのずと、北へ反り気味に、軒昂たる動勢を持するゆえん。

しかも、これは概観のことで、朝暮、陰晴、雲霧、夜色、などによって、さらに季節の推移につれて、その姿態、色相は千変また万化、真に応接にいとまが無い。朝まだき、素焼の瓶子を水中に沈めたような、清らかにおっとりした風情。独り落陽をとどめて、巨大なつま紅蝶の翅を展ばした、華麗な色調。月光に凍る清痩の面影。古墳にまがう星夜の形……。特に、今の今見えていた富士が、忽然と雲の中――蚕の作りかけの繭さながら。あたかも、手品師が、開いた手に手巾をかぶせ、何やら呪文を唱えた末、パッとそれを除ければ、掌にはキレイな小鳥――それそっくり。まつわった暗雲が、やがて、さっと散るや、こんどそこに現われた御山といったら、見ちがえるほど化粧をこらし、衣裳を改めた、匂うばかりの女神像! こうして春の近づくままに、不二は白無垢を、十二単えにかさねてゆき、裾野も毛無も、朽葉染めの荒妙から、次第に白妙に衣更え……