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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
里人でも若い世代は知らないのが通例で、たまたま老人の話を耳に留めているのは例外という程度だ。細野にも七十以上の老人が二十数人はあると聞いて、その人たちにいろいろ尋ねてみたいと思いながら、まだ果さない。私はさきに「発掘」という言葉を用いたが、わが民族の生命を支え来たった稲作り、その指導にあたった功労者の像が、まさに埋もれようとする時代に、それらを記録に留めておくのは、真に意義のある事であり、また大いに愉快な事だと私は思っている。大方の協力を望みたい。
この宿で求められるまま色紙に「山静似太古」の古詩の一句を記念に留めたが、バスの通う山村で、この句にこれほどの実感を盛り得たことは、かつてなかった。
それにしても、こうまで種蒔き爺さんが、あちらにもこちらにも輩出し、それが申し合わせたようによく似た形をしている、というのはどうしたわけか、この疑問は当然起るはずだ。偶然――とは言ってしまえまい。考えてみると、あの像を造る素材たる地形が、山特に日本アルプスには方々にあることに気がつくだろう。即ち小さい脇尾根が、稜線近くから、見かけ上垂直に垂れている、その背※の最も張った所が胴体になり、付け根の辺が笠や頭に、下方のやや崩れた所が脚になる……といったわけだ。