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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

平地のツマキチョウに似てはいるが、全く別物で異国的な、まだわが国に産出の知られていない種と見た。もう蝶の採集はやめていた私だが、これはいやでも捕えねばならぬ。専門家でない私の、口や筆での報告を誰が信用しよう。

だがネットは無い。麻の運動帽の鍔を、顫える手に掴んで、あわれ無心に花を吸う小蝶に忍び寄る。息づまる一瞬、パッと花ごとそれを伏せた。私はガタガタ慄え出す。蝶は今や小さな帽子の下にいる。だがそれを取出すのは容易でない。ネットならぬ帽子では、外から蝶の所在は分らぬ。逃がしてはならず、手荒に掴んで傷めては意味がない。私はそっと縁をめくる。果たして蝶は明るみに顔を出す。大切に――と命ぜられて、かえってギゴチなく剛ばる手。スルリとそれをかいくぐって飛び去る蝶。棒立ちのまま行方を追う眼。だが蝶は、そう遠くない花野の一角に降りた。私は夢中に追いすがる。鳳蝶ならおしまいだったろう。

私は前の動作を、より慎重にくり返した。今度こそ捕えた。だが筋肉や関節が中々に言うことをきかず、義手か何ぞのようで、拇指と人差指で挾んだ、か弱い蝶の胴体を、擦り潰しそうに無制御な動き方をする。