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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
(毛勝岳へ登るには、ここから分れて、時早く雪の多い頃は中ノ谷から、おそくなっては、きれいな草尾根のある北ノ谷から、登るのがよい――という助七の話だ)大抜け、小抜けなど呼ぶ、真新らしい崩壊が、両側からこの谷を吹き荒らして、心の白けるばかり索莫たる風景を展げている。ところどころ、時代を経た切り岸が、苔臭い水に臨むといった、滋味のある景色もないではないが、それはむしろ一部分だ。変動の激しく荒い、北方の気象の中に、恐ろしく急峻でしかも頭勝ちの、それも最早や大ぶん組織のゆるんだらしい峯が、この切り立った谷をのぞき込んでいるのだから、どうもはなはだ、むずかしいところだ。しかし細くとも、去年からこの谷道ができたので、以前のように、谷底を綱にすがる必要だけは、無くなったわけだという。
谷は半途から雪渓となって、えんえん峯まで続いている。支谷もみな雪ばかりだ。白兀、赤兀など、いずれも細い立樋に似た峡間に、残雪が、あまりの急斜にたまらず、処々割れたり、ズレたりして、木っぱを積んだ風に懸っている。――ただしこれら特異の景物は、みなまったくの頭上にあって、峡口が狭く、渡る足元は危ういから、うっかり下にばかり気をとられて行こうなら、一歩にして、せっかくの奇景も、ふっつり影さえとどめないだろう。