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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
宿の人々も、湯を閉じて、富山へ帰る日が近づく。それで、いつも先きに立って、栗鼠のように目まぐるしく働いている宿のお婆さんは、一そう忙がわしげで、何かの取片づけやあと始末に、夢中だ。母屋だけを残して、あとは皆崩して畳んで、冬の間は積み重ねておくのだという。もちろん雪を避けるためだ。それから来年の用意に、雪の下に囲って置く味噌――それを炊くというので、若者たちは夜の目もねずに、豆を煮たり、つぶしたり、思いきり働かされる。
こうして、来るべき年の春まで、深雪の下に埋もれる、この峡谷の絶底の孤つ屋には、豆腐造りの中年夫婦が、乳呑子とただ三人、留守居を勤めるのだという――繩や草鞋の手細工などをやりながら。その長い冬を。「冬」――それは、ここでは一年の大半であり、そして「夜」が、その一日の大半であるという……
私がこの恵み深い谷間の湯を辞したのは、十月も半ばをすぎて、湯を閉じるに、あと二、三日という日だった。身体の不自由な、白髯のお爺さんの長寿を祈って別れを告げ、働き好きで親切なお婆さんや、女中たちに、昨日の雨でできたという、道の崩壊まで見送られる。用達しがてら、私の荷を負って、舟見まで送ってくれるという、宿の若者が連れ立つ。