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パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁

青空文庫

人生の首途。けさは、本当にそんな気がした。途中、電車の中で、なんども涙ぐんだ。そうして昼ごろ、ぼんやり家へ帰って来た。なんだか、へとへとに疲れた。

芝の斎藤氏邸は、森閑としていた。平家の奥深そうな家であった。玄関のベルを、なんど押しても、森閑としている。猛犬でも出て来るんじゃないかと、びくびくしていたが、犬ころ一匹出て来る気配さえ無い。まごまごしていたら、庭の枝折戸から、

「ま! おどろいた。」と言って真赤な帯をしめた少女があらわれた。女中のようでもないし、まさか令嬢でもないだろう。気品が足りない。

「先生は御在宅ですか。」

「さあ。」あいまいな返事である。ただ、にこにこ笑っている。少し蓮っ葉だけど、感じはそんなに悪くない。親戚の娘さん、とでもいったところかも知れない。

「紹介状を持って来ましたけど。」

「そうですか。」娘さんは素直に紹介状を受け取った。「少しお待ち下さい。」

まずよし、と僕は、ほくそ笑んだ。それからがいけなかった。しばらくして娘さんが、また庭のほうからやって来て、

「ご用は、なんでしょうか。」

これには困った。簡単には言えない。まさか紹介状の文句のとおりに、「御指南を受けに来ました。