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パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁

青空文庫

まったく誰にも興味が無いのだ。ただ、うるさいだけだ。なんの苦も無くこのまま出家遁世できる気持だ。人生には、不思議な朝もあるものだ。

幻滅。それだ。この言葉は、なるべく使いたくなかったのだが、どうも、他には言葉が無いようだ。幻滅。しかも、ほんものの幻滅だ。われ、大学に幻滅せり、と以前に猛り猛って書き記した事があったような気がするが、いま考えてみると、あれは幻滅でなく、憎悪、敵意、野望などの燃え上る熱情だった。ほんものの幻滅とは、あんな積極的なものではない。ただ、ぼんやりだ。そうして、ぼんやり厳粛だ。われ、演劇に幻滅せり。ああ、こんな言葉は言いたくない! けれども、なんだか真実らしい。

自殺。けさは落ちついて、自殺を思った。ほんものの幻滅は、人間を全く呆けさせるか、それとも自殺させるか、おそろしい魔物である。

たしかに僕は幻滅している。否定する事は出来ない。けれども、生きる最後の一すじの道に幻滅した男は、いったい、どうしたらよいのか。演劇は、僕にとって、唯一の生き甲斐であったのだ。

ごまかさずに、深く考えて見よう。演劇を、くだらない等とは思わぬ。くだらないなんて、とんでもない事だ。