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せかいかいきじつわ「じょぶん」

世界怪奇実話

牧 逸馬

線上閱讀牧 逸馬《世界怪奇実話(せかいかいきじつわ「じょぶん」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 251,305 字 · 498 頁

青空文庫

そして、出たきり帰らない。其の内誰も、生きて再び見られた者はなかった。

が、依然としてフリッツ・ハアルマンは、愛嬌者の「街の肉屋」だ。朝早くから快活に仕事に就いて、せっせと肉を切っている。「血だらけな前掛」をして、鼻唄混りに、肉を叩いている。大きな骨から、肉を引き離している。骨は、足許の錻力缶へ山のように投げ込まれる。肉は肉で、血の垂れた儘、背後の壁の釘に刺して下げて置く。新鮮な犢の肉だ。少し古くなると、腸詰に拵える。フリッツ・ハアルマンの店は、何時来て見ても、ストックが豊富だった。冷蔵庫には、小さく切った肉片が、各段にきちんと並べてあった。血と肉と骨は、肉屋の店の日常の光景である。人は少しも奇異の感を抱かないし、店主ハアルマンは日増しに血色好く、陽気に、呑気に、小肥りに、界隈の道化者になって往った。若い衆が入り交り立ち代り店へ這入って来て、馬鹿話しをして往く。前を通る町内の誰かれに、ハアルマンは肉の上から大声の挨拶だ。

日が経った。

この「肉屋に化けた人鬼」フリッツ・ハアルマンの逮捕となった直接の証拠は、一枚の外套だった。それは、犠牲者中の最年少者、二十五番に出ているフリイドリッヒ・アベリンク――十歳。