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よせ
圓太郎馬車 正岡容寄席小説集
正岡 容
線上閱讀正岡 容《圓太郎馬車 正岡容寄席小説集(よせ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 147,226 字 · 295 頁
「…………」
今松は肯いた。
「首尾なく兄さんがここのお邸の御養子になれたら、いくらかくださいよ私にも」
「やるよ、そりゃやるとも」
「いくらくれます」
「十五銭」
「いやだよ十五銭ぽっち」
「嘘だ嘘だ、もっとあげるよ」
「いくら」
「三円」
「エ、三円ほんとに三円」
身体全体へ激しくよろこびの色を見せて桃輔は、
「ありがてえ。これだ」
黙って両手で拝む真似をした。
寄席の木戸が二銭から三銭五厘、名人圓朝が四銭取ってなおかつ八丁荒らしと驚嘆されたその時代である。前座の桃輔に三円は、正しく金時計二つ三つもらったくらいの大いなる歓びに価するだろう。
そのとき遠くから静かな足音が聞こえてきた。
あわてて桃輔は口をつぐみ、取ってつけたような大真面目な顔になって今松の膝をつついた。
黙って今松も居ずまいを正した。
スーツと首筋から足の爪先まで、水のようなものが走って落ちた。
襖が開いた。
七十近い総白髪の、目の怖ろしい、鷲鼻の、口の大きい、五尺何寸とありそうな大柄の御隠居様が浅黄綸子のような立派な着つけをお引摺りにして、今松にはなんだかよくわからない白地へ金銀の縫いのあるキラキラした帯を前結びにダラリと下げ、その上からやはり白と茶と金茶の入り乱れたおかいどりのようなものを羽織ってゆったりと入ってきた。