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おおおかえちぜんのどくりつ
大岡越前の独立
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《大岡越前の独立(おおおかえちぜんのどくりつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 頁
「天一坊」
と、越前が、大声でいった。そして、一人の侍の差出した菅笠を、左手に、天一坊へ突出して
「見覚えあるか」
と、烈しい口調であった。すぐ、後方につづいていた赤川大膳は、全身の神経で、四方にいる越前の手先達を眺め廻した。天一坊は何故か判らなかったが、越前守の言葉が烈しいので、首を差出して、菅笠を覗き込むと
「宝沢とは偽り者めッ、それッ」
と、叫ぶと、右手で、胸を突いた。天一坊は、よろめきながら、何ういっていいか?、何うしていいか?、判らなかった。自分が、本当に御落胤か、ちがっているか?、山内伊賀亮に、そういわれると、そういう気もしたが、越前守に
「宝沢」
と、呼ばれると、氏も、素性もない宝沢という気もした。母親は、彼の生れた時に死んだし、彼としては、自分で、落胤だと信じていい何の証拠も無かった。
「偽り者めッ」
と、いわれたから、それを否定しようと思ったが、一年半近く、御落胤と信じていて、とっくに、宝沢の生活を、自分の記憶から捨てていた天一坊にとって、二つの生活が、余りにちがっているが為、総てが――今、胸を突かれた事も、誰かが、両腕を押えていることも、赤川の叫びも、常楽院の号泣も、騒がしさも、一切が、夢のように感じられた、極端な二つの生活が、混乱して、頭の中で、素早く廻転し、明滅すると共に、