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おおおかえちぜんのどくりつ

大岡越前の独立

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《大岡越前の独立(おおおかえちぜんのどくりつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 頁

青空文庫

三

三

「伊賀、よかったなあ」

と、越前守を送り出して、赤川大膳と、部屋へ入ってくると、天一坊は、しとねの上へ立ったまま、感嘆的に、だが、低い声をかけた。山内伊賀亮は、伏目のまま、黙って自分の座へ坐った。天一坊が坐りかけて、何かいおうとするのを眼で制していると、二人の女中が擦り足に入ってきて、眼も上げずに、越前守の坐っていた座布団をもって行った。天一坊の背後にいた常楽院が

「いや、山内殿の智弁には、今更ながら、つくづく恐れ入った。流石の大岡越前守も、一言もなく、尻っ尾を捲いて引退って行ったがいや、感服感服」

伊賀は、黙って、両腕を組んだまま俯いていたが

「いいや――」

と、低く呟くと、首を振った。

「何か――」

と、大膳が、三宝の上の勝栗をつまみながら、伊賀の顔を覗くと

「越前の肚が判らぬ」

「肚とは?」

「飴色網代の乗物へ乗った訳は?、とか、紫地、花葵の定紋幕を打った訳は?、とか――それほどのことを、わざわざ聞くような越前ではない。彼奴は、ちゃんと心得ていて聞いたのだが、聞かれると、返答せん訳には参らぬ。拙者が答えると、じっと、拙者の顔を、ちらっと、天一坊殿の顔を――」