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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 頁

青空文庫

「あははは。アハハハ」

小兵衛はひとり、手を打ちたたいて、笑った。

「あれ、あれ。あんな方へ行きおるわえ」

と、心地よげに、遠くを見ていた。かれ一人の口さきで、二万の軍隊を、まる二日間、深山谿谷の中にさまよわせ、その目標を失わせたのだから――愉快にはちがいあるまい。

だが、小兵衛が、心から愉快としたのは、これによって、旧主の恩を報じたことであった。

かれの父は、もと前田家の浪人なのだ。或る年、云い開きのたたぬ役目上の落度があり、尾山城の一室で、切腹を命ぜられた。

――が、情に篤い利家は、番の小姓に命じて、深夜、搦め手から、その者を、落してやった。

そして、夜が明けてから、わざと、激怒を見せ、承知の上で、方角ちがいへ追手をかけた。――もちろん、捕まるわけはない。

(わし達は、そういうお蔭で、余生を、倶利伽羅谷に送り、おまえらを大きく育てあげることができたのじゃ。……ゆめ、利家様の御恩を、わすれてくれるなよ)

小兵衛の父親は、死す時、枕べの兄弟たちへ、云い遺した。

父のそのはなしは、日頃も、炉ばたに寄ると、よく聞かされていたことなので、兄弟たちは、後、炭薪商人となって、都市人に立ち交じるようになってからも、朝夕忘れたことはなかった。