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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁

青空文庫

「なぜ退くかッ。退くな」

味方のみだれを怪しむ者は、味方にむかって憤怒した。しかしそうした人々も、忽ち雪崩に巻かれて、麓のほうへ駈け出した。自分たちの主将、松田太郎左衛門が一弾に中って、部下の兵に担がれてゆくのをようやく眼に見たからである。

「追えッ。突きまくれッ」

堀隊の大半は、すでに追撃をかけている。――が、秀政は、声をかぎりに、

「追うなッ」

止めていた。制していた。

けれどその間髪の勢いは到底、制止も何もきくようなものではない。果たせるかな山上から、松田隊の先鋒がまるで濁流のように駈けて来た。後続隊が来ないところへ、主将討たると聞いて、当然降りて来たものだった。

数においては、堀隊は彼の比でない。一戦どころか、ひと支えもなし得ず、急坂を駈け降りて来た敵の部隊に、つき飛ばされ、踏みつぶされてしまった。さきに麓へ追って行った堀隊の一部もまた、秀政の案じたとおり挟撃をうけて、惨たる苦戦に立ってしまった。

そのとき堀尾、中川、高山、池田の混成山之手隊は、山上にむらがり立って、

「取ったッ」

「天王山は、わが軍のもの」

と、序戦第一の歓呼を張りあげていた。