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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

(この世の名残を尽さん)

と、死の饗宴のみを潔くしていたのは一体どうしたことだろう。座には、一族股肱の者八十余名はあり、櫓々にはなお一死を辞せざる鉄甲二千以上は優に数えられるのに、賤ヶ嶽の一蹉跌以来、彼自身が自身のうちで“負けた”と観念していたことは、畢竟するに、玄蕃允の若気以上、北ノ庄滅亡の最大な敗因ではあるまいか。

往年の彼を知るもの、誰か今日、柴田老いたりの歎なきを得よう。――長光寺城一砕の大甕も、ここに至っては、可惜、何の精彩も見ることはできない。世間の土中に過去現在未来する無数の糞甕と、彼もまた変るところのない、一個の凡甕と化していたのであろうか。

杯はめぐり、まためぐり、数樽の酒も、夜とともに涸れてゆく。

唄に鼓あり、舞に銀扇あり、人に歓声笑語もあるが、いかんせん、悲愁の気は掃うことができない。

折々、氷室のような沈黙と、夜気に墨を吐く燭のゆらめきが、座中八十余名の酔顔を、酒の気もないように白々と見せるのだった。

「まだ夜は深い。明けるには間もあり、城外の敵も、闃として密まりおれば、充分にお過ごしなされ。――お心おきなく」

小島若狭守ひとりは、酒宴のうちも、たえず天守の廊を巡って、敵のうごきを監視していた。