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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

しかし私はこの話を聴いて、ふと気がついたことが一つあった。琉球の旧王室では、以前地方の祝女の頭たちが拝謁に出たときに、必ず煙草の葉をもって賜物とせられたことが記録に散見している。宮古や八重山の大阿母などは、危険の最も多い荒海を渡って、一生に一度の参覲を恙なくなしとげることを、神々の殊なる恩寵と解し、また常民に望まれぬ光栄としていた。そういう人間の大事件を記念するものが、たちまち煙となって消えてしまう一品であったということは、何かまだ我々の捉え得ない隠れた力が、この蔭にあったからであろう。それがこのおさだ子の話によって、少しずつたぐり寄せられるように、私には感じられたのである。

陸前の登米で生まれた人の話に、この人の父は毎朝煙草をのむ前に、そのきざみを三つまみずつ、火入れの新しい火に置いて唱えごとをした。「南無阿保原の地蔵尊、口中一切の病を除かせたまえ」と言って、その煙草を御供え申したのだそうである。阿保原の地蔵は刈田郡にあるというが、私はまだ詣ったことも無くまた書物などでも見たことがない。こういう信仰行事は他にもあることであろうか。もう少し例を集めてみたいものと心がけている。