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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
是が銘酒という語の起原である。酒は本来は女の造るものときまっていたのに、こういう銘酒の産地が、多くは婦人と縁のない寺方であったということは、ちょっと珍しい現象である。足利後期の京都人の日記など見ると、別に「ゐなか」という酒が地方から、ぽつぽつと献上せられ且つ賞玩せられている。田舎と謂っても勿論富豪の家であろうが、こうして自慢の手造りを、京まで持参しようとするのだから、もうこの頃には貯蔵の風が弘く行き渡り、或る家には飲まずに辛抱している酒というものが有ったのである。しかしそういう酒の自由になる人は、おそらくは有力者だけに限られていたことであろう。事実また尋常の日本人は、秋の穀物の特に豊かなる季節に、祭礼とか秋忘れの寄合いを目あてに、大いに飲むつもりでめいめいの酒を造ったので、貯えて置けるようならよいのだが、大抵は集まって皆飲んでしまったらしい。
秋になるより里の酒桶
という『曠野集』の附句もある。或いはまた、
ふつ/\なるを覗く甘酒
という『続猿蓑』の句などもあって、またこの頃までは甘酒の醗酵して酒になる日を、楽しみにして待っている人も多かった。それが一年にまたは一生涯に、数えるほどしかない好い日であったことは言うまでもない。