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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
幕府領などは大分前から、米年貢に改まっていたが、小さな大名領では江戸期終りまで、籾俵の年貢を取っていた地方も少なくはなかった。こういう状態のもとにおいて、水田農事の結末をコキンテという地方が多かったのは、不思議ではないのであった。この語の行われている区域は、日本海側では越前・加賀・能登などで、ミテルを終了するの意味に用いている地方ならば、稲こきの完成をコキミテと謂うのは当り前の話だが、それが今ではもう分らなくなろうとしている。最近読んでみた『石川県珠洲郡誌』に依れば、同郡木郎村では収穫終りの休日をコキンテ、宝立村ではコキンチョ、直村ではコキンチョウと謂って、いずれもこの日を祝い牡丹餅などをこしらえて、神に供えまた自分たちも食べる。すなわち稲扱きがみてればそれで田の仕事は一切りが付くので、その日の幸福を記念せざるを得なかったのである。
今日は多分古風な人だけが、この言葉を使うことになっているだろうと思うが、是は随分永い歴史があり、また人生にとって最も痛切なる内容を有つ日本語の一つであった。農夫の立場から見れば、嫁取・聟入・御産・元服・節季・正月などという語と同じ程度に、胸の轟きなしには用いることのできぬ語であった。